はじめに
私は2014年からASMR動画を投稿しています。
当時はまだ日本でASMRという言葉が広く知られておらず、「音フェチ動画」と呼ばれることも多い時代でした。
それから12年以上にわたり、囁き声による雑談、日本語講座ASMR、日本文学朗読ASMRなど、さまざまな作品を制作してきました。
活動を続ける中で、何度も不思議に思うことがありました。
それは、日本語を学びたい人だけでなく、日本語が分からない人まで、日本語ASMRを楽しんでいるということです。
海外の視聴者さんから、
「意味は分からないけれど心地よい」
「日本語の響きが好き」
という感想をいただくことがあります。
また、日本人の視聴者さんからも、
「日本語講座ASMRをよく聞いていました」
という声をいただいてきました。
この記事では、ASMR歴12年の私自身の体験をもとに、日本語とASMRの相性について考えてみたいと思います。
日本語講座ASMRで意外だったこと
私が日本語講座ASMRを始めた理由は、日本語を学びたい海外の方のお役に立てればいいな、という気持ちからでした。
色の名前を紹介したり、ひらがなやカタカナを読んだり、日本語の単語を一つひとつ囁いたりする動画を制作しました。
ところが、実際に動画を公開してみると予想していなかった反応がありました。
「日本人だけどよく日本語講座聞いてました」
というコメントをいただいたのです。
私は最初、日本語を学びたい人のための動画だと思っていました。
しかし実際には、日本語を勉強するためではなく、日本語の音そのものを楽しむために聞いている人も少なくありませんでした。
これは私にとって大きな発見でした。
日本語は、響きそのものに魅力があるのかもしれない。
そう感じるようになったきっかけの一つです。
日本語の母音とオノマトペの心地よさ
私は言語学者ではありませんが、ASMRを長年制作する中で、日本語の音には独特の心地よさがあるように感じています。
その理由の一つとして、日本語の母音の存在があるのかもしれません。
日本語は、
・あ
・い
・う
・え
・お
という5つの母音を中心に構成されています。
たとえば、
・ありがとう
・こころ
・さくら
・やさしさ
・ひかり
といった言葉は、声に出してみると比較的なめらかに発音できます。
囁き声で発音した時も、耳にやさしく届きやすいように感じます。
また、日本語にはオノマトペがとても豊富です。
・さらさら
・しとしと
・ぽつぽつ
・ふわふわ
・きらきら
こうした言葉は、意味だけでなく、音そのものが感覚を伝えてくれます。
ASMRは、耳や感覚に働きかけるコンテンツです。
そのため、音の響きやリズム、感覚表現が豊かな日本語とは相性が良いのではないかと感じています。
山手線の読み上げが印象に残っている理由
私の動画の中で、今でも印象に残っているものがあります。
東京山手線の駅名を読み上げる動画です。
正直に言うと、投稿した当時はここまで長く見られる動画になるとは思っていませんでした。
しかし年月が経った今でも、
「山手線の動画が好きでした」
「最初にハマった動画が山手線でした」
というコメントをいただくことがあります。
考えてみると、
・新宿
・代々木
・渋谷
・上野
などの駅名、地名には独特のリズムがあります。
意味よりも音の流れ。
言葉の持つテンポ。
そういったものがASMRとして心地よく感じられたのかもしれません。
よく知っている地名でありながら、囁き声で読み上げると、普段とは違う響きになります。
地名は日常的な言葉ですが、ASMRとして聞くと、音の並びやリズムが前に出てくるように感じます。
実際の山手線読み上げ動画はこちらです。

当時は日本語講座の動画の延長として、日本を知って欲しいという気持ちから制作していました。
しかし今振り返ると、この動画は駅名だけではなく、日本語の音そのものを楽しんでもらう動画でもあったのだと思います。
「大陸」という言葉が印象に残った理由
以前、アクセント辞典から単語をランダムに読み上げるASMR動画を制作したことがあります。
その時は特に深く考えず、辞典に載っている言葉をランダムに選び、一つずつ読んでいました。
ところが公開後、「大陸」という単語について印象に残るコメントをいただいたことがありました。
「大陸の響きが好き」
という内容です。
私は正直、少し意外でした。
もっと珍しい言葉や、美しい意味を持つ言葉が印象に残ると思っていたからです。
しかし、そのコメントを見てから私自身も改めて「大陸」という言葉を聞いてみると、どこか耳に残る響きがあるように感じました。
なぜそう感じるのか、正確な理由は分かりませんが、私なりに考えてみると…
「た」という少し破裂するような音から始まり、「り」の軽やかな、舌を少し丸めた籠る響きを経て、「く」で静かに終わる音の流れ。それを連続して聴く音が心地よかったのかもしれません。
ASMRを続けてきて思うのは、人は言葉の意味だけでなく、音そのものにも惹かれることがあるということです。
実際の動画はこちらです。

この出来事は、日本語という言語の面白さを改めて感じた瞬間でした。
海外の人は日本語ASMRの何に惹かれているのか
最近、YouTubeのコメントを分析してみました。
そこで見えてきたのは、
・日本語の響きへの癒やし
・日本文化への興味
・日本語学習への活用
という3つの傾向でした。
つまり、多くの人は単にASMRを聞いているだけではありません。
日本語そのものや、日本文化にも興味を持っているのです。
日本語講座ASMRをきっかけに日本語に興味を持ってくださった方もいます。
また、妖怪や三味線、日本文学など、日本文化に関する動画を楽しんでくださる方もいます。
私自身、日本語を学ぶための動画として作ったものが、癒やしや文化への入り口として受け取られていることに驚きました。
言葉の意味が分かる人に届くのはもちろん嬉しいことです。
でも、意味がすべて分からなくても、日本語の響きや雰囲気を楽しんでもらえる。
それはASMRならではの面白さだと思います。
日本文学朗読ASMRと日本語の美しさ
私は長年、日本文学の朗読ASMRも制作しています。
特に夏目漱石先生の『夢十夜』は、多くの方に聞いていただいている作品です。
実際の動画はこちらです。

私が『夢十夜』を朗読しようと思った理由の一つは、日本語そのものの美しさを味わってほしいという思いでした。
物語の内容ももちろん魅力的ですが、それ以上に言葉の選び方や文章の流れに独特の美しさがあります。
文学作品を囁き声で読むと、普段とは違った形で言葉が耳に入ってきます。
物語を理解するだけではなく、
・言葉の響き
・文章のリズム
・日本語特有の間
を味わうことができます。
私自身、何度も朗読を続ける中で、日本語の持つ音楽性のようなものを感じることがあります。
また、『夢十夜』の動画は、公開から長い年月が経った今でも視聴してくださる方がいます。
それは作品そのものの魅力だけではなく、日本語の響きや朗読のリズムを楽しんでくださっている部分もあるのではないかと感じています。
だからこそ、日本文学とASMRは相性が良いのではないかと思うのです。
ASMR歴12年の私が感じる日本語の魅力
12年間活動してきて感じるのは、日本語には意味を超えて人の心に届く部分があるのではないか、ということです。
もちろん私は研究者ではありません。
そのため、科学的な結論を出すことはできません。
しかし、
山手線の読み上げが長く愛され、
「大陸」という言葉に印象的な反応をいただき、
日本語講座ASMRを日本人も楽しみ、
海外の方が日本語の響きに癒やされる。
そんな体験を積み重ねるうちに、日本語とASMRには特別な相性があるように感じるようになりました。
私にとってASMRは、ただ音を出すだけのものではありません。
声、言葉、文化、記憶。
そうしたものが重なり合って生まれる表現だと感じています。
これからも私は、日本語、日本文学、日本文化の魅力を音として届けていきたいと思っています。
みなさんには、なぜか好きな日本語の言葉はあるでしょうか。
意味だけではなく、音として心地よい言葉。
そんな視点で日本語を聞いてみると、また違った発見があるかもしれません。
この記事を読んでくださった方にも、日本語の持つ音の面白さや美しさを少しでも感じていただけたら嬉しいです。
ではでは皆さん、また次回。
ごきげんよう。

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